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澱引き(おりびき)

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一斗瓶の底にうっすらと溜まった白い澱

 2月20日に搾られた大吟醸は、この日まで冷蔵庫で16日間安置され、酒の中の微細な浮遊物を沈殿させていた。この浮遊物は搾られた際に酒袋の縫い目からにじみ出してきた米の細片などで、大吟醸を含む高級品種は手作業によってこれらの澱と上澄みを分ける「澱引き」を行う。

 冷蔵庫は常時3度に冷やされている。そんなことだろうと、この日の私はニットキャップにダウンジャケットという完全防寒で準備万端。ところが撮影開始から十数分で、その完全防寒にもスキがあったことに気付いた。冷気が足の指をピリピリと襲いはじめたのだ。

 冷蔵庫の出入りは専用のサンダルを履かなければならない。これがまた、いかにも安っぽい(失礼!)ビニールサンダル。ソックスを履いた足の指はむき出しの状態だ。ここから冷気が襲う。同じサンダルを履いた蔵人・佐竹さんと藤原さんは、特に寒がりもせず、黙々と作業を進める。「慣れました」という二人にプロフェッショナルを感じる。

 大吟醸がたっぷり入った一斗瓶を、そぅーっと木箱に入れ、腰の高さまでの台に置く。床には「溜め」と呼ばれる桶が用意されている。一斗瓶の口にビニールホースを差し込む。片方のホースの先はミニボトルに差し込まれる。ミニボトルの口から上澄み液を間接的に吸い上げ、ホース内を液で満たすと、あとはサイフォンの原理によって低い位置にある溜めへ、自然に酒が流れ続ける。

 注意しなければならないのは、最初に吸い上げる途中で上澄み液を逆流させないこと。逆流した液体が底にたまった澱を舞い上げてしまうと、また沈殿させるために約一週間も待たないといけない。当然、ホースで澱を吸い上げてしまうのもNGだ。繊細さを要求される作業が、外界と遮断された沈黙の密室で行われる。寒いからといって、クシャミなんかできる雰囲気ではない。

 約40分で8本の一斗瓶の澱引きが終わった。集められた上澄みは続いてさらに濾過される予定だ。作業が終わり佐竹さんから「休憩所であったかいコーヒーでも飲みや」と促され、素直に休憩所へ。そこは、一足早く休憩を取っていた他の蔵人達による「どのイカがうまいか?」の話題で熱く盛り上がっていた。

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by tosanosaketsukuri | 2009-03-05 18:28 | 酒造り
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